金の高騰が止まらない背景について
発刊日:2024年10月12日
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1973年10月に起きた第四次中東戦争とオイルショック、不思議なことにジャスト50年前の出来事であった。近隣のイラン・イラクなどの他産油国間で多くの戦争が起こり、幾重にも血で血を洗う戦争を繰り返し頻発してきた。先の大戦後、世界の国際通貨となった米国のドルを使い、中東の産油大国たるサウジアラビアの石油を米ドルで販売する協定を結び地域の安定を図った。 |
この協定により、サウジアラビアは国内の採掘資源を世界に輸出し、膨大な米ドルを獲得する地位を築いた。その輸出を手掛けたサウジのアラムコの年間売上高は80兆円と云われ、アップルの倍以上の売上規模を誇る巨大企業だ。この世界一の売上を誇る巨大企業を創出させたのがこの米ドルの国際通貨としての経済パワーだ。 |
さて、金も然り、世界の相場は超リアルタイムな取引が発生している、株や債券に投資した方はご存知の言葉に「板」というものがあり、商品や金融の市場で売りと買いの「板」が入り、成り行きや指し値等で取引が成立していく。市場で取引が成立すると代金の決済をする前に、オンボードで掲示板で相場が点滅し、発生した売買価格が表示される、これが相場の取引モデルだ。 |
この板寄せのサイクルを高速で自動売買するシステムがある。金融用語の中に、High Frequency Trading(略名:HFT)と呼ばれているモデルだ。スーパーコンピュータレベルのCPを使い、1秒間に数千回の売買を成立させる代物だ。このモデルを使えば、為替や国債などの大量の売買取引もボタン一つで自動的に売買され、1人のオペレ―ターで巨大な資金も楽々投資が可能となるマシンだ。 |
従来、マクロ経済を解析し、個別の商品や企業の情報を踏まえ、銘柄を絞り込み、投資を設計してきた。AIが誕生した今、投資の世界も究極的なデジタル文明と課した。あえてデジタルという言葉を引用したが、この超高速の自動売買には究極的な弱点がある、それは、チャートなどによる価格変動のパターンの固定化と、相場の安定化が何よりも苦手な敵対勢力だ。 |
冒頭の金相場の形成についてだが、1971年8月に起きたニクソンショックから金相場が生まれ変わった。当時1ドルと1オンス(約28.35g)を交換することで、米ドルが世界の基軸通貨としての地位を確保した。軍事力を背景に、世界の油を米ドルが支配し、国際通貨の地位を築いたのが米国の世界戦略であった。この1971年の金ショックから世界の金は米ドルと共に変動相場制に移行した。 |
石油に同じく金の埋蔵量も有限な資源であるが、石油は消費しても化学変化していることから土にかえり、再度、石油に戻ることはないが、1gが14,000円を超える金を捨ててしまう人はいない。必ず、流通し、金は再生するのが石油との決定的な違いだ。石油は代替えエネルギーへの変換や藻などのバイオエネルギーの生産で、供給が需要に対し増えることもあり、減ることもある。 |
錬金術と呼ばれる金の合成は、未だ完成していない。万が一、ダイヤモンドのように合成ダイヤモンドが産業ベースで開発された場合であっても、合成ダイヤモンドの市場が形成され、本物のダイヤモンドの価格形成には支障が出ない。金も同様に埋蔵量に限界があるが、安定した産業ベースで量産されているからこそ、直近の相場が異常な高値であると窺える。 |
ここで論点を金とドルの相場に移す、1971年に金1オンス@35ドルであったが、2024年10月18日のNY市場で遂に同@2,700ドルを突破した。この価格は当時の相場から77倍の高値だ、ドルが固定相場で360円であったことから、実質的には30倍程度の急騰となった。この上昇率は、預金レート年率7.8%を複利で30年間預けた時の投資効率と同じである。 |
1971年のドルと金の交換が禁止されたニクソンショック後は、当然、ドル安が続き、日本のバブル期には1ドルが80円を切った 。円は対ドルで約5倍となり、ドルは対円に対して5分の一に暴落した。されど、ドル建て価格30倍×為替レート0.22倍=6.6倍となり、1971年当時の金1gの価格は@445円、金の上昇を同率の30倍とすると@13,650円/1gが1ドル80円レートの金理論価格となる。 |
現在が変動相場であることを踏まえると、当時の金交換レートにかなりの水増しがあったと想定される。もしくは1ドル360円というドル高政策に現実とのギャップが相当なレートであったと云わざるえ終えない。以前から、本稿で申し上げている通り、現在の日本の円は理想的には3分の1、少なくとも半分というのが実質的な経済バランスといえる。 |
あくまでも予想となるが、NY市場で1オンスが3000ドルを超えてくるあたりで、ドルの相場は世界的にドル安に反転すると予測する。米国は強いドルを是正し、正常なドル安誘導を行い、内需拡大による有効な経済政策を構築すると考える。時期は、年明けの3-4月あたりかと考えているが、来月の米国の選挙次第で様相が見えてくる。米国の共和党が目指す、古き良き米国の構想は、ドル建ての対外投資やグローバルなネットワークによる国際調達網の解体だ。 |
市場の動向や中国筋のトレーダーの動きをみていると、一つのヒントが見えてくる。それは、中国政府が資金調達したと予想される金の消費貸借契約だ。金の消費貸借とは借主が借用した金を一度売却して"金銭"に交換し使用できる契約だが、満期に返済するのは当然"金"の現物を返済する。これが、金消費貸借契約というものだ。香港の返還前に香港上海銀行(HSBC)が中心となり、香港ドル建てで融資したのが実情か |
この方法は中世の時代からあるお金の貸方の一つで、中世の貴族たちは多くの金やダイヤモンドを所有していた。この金をユダヤ系の金融事業者たちは貴族から調達をした。預かった金を戦争やマーケット戦略等に必要な国々に対し、この金を差し出し、資金を供給してきた。金融業は資金だけを貸し借りせずに小切手や商業手形、金や証券と様々な代物試算で貸付や回収の取り決めを契約し、運用という大義のもとに収益を上げてきた業界だ。 |
この金は戦争との関係が多くみられ、先の大戦の際にはポンドがその役割を果たし、戦闘している国家の資金調達を担った。戦争に負けると敗戦国の紙幣では回収ができないので、金を弁済資産と規定する貸付の契約が主流となっていた。戦前に借りた金はポンドに変え、戦後に借りた金はドルに換え、調達の原資に利用した。国際金融の債権者は例え国際基軸通貨たる米ドルも信用をしていない。ドルを貸して金を返済するのは投機的な目的からか、正当に金を貸し、金を契約の数量で回収した。 |
今、中国のトレーダーが金の先物買いを異常に入れているという市場の噂だ。おそらく政府が調達した金の弁済が完了するまで、異常なまでのレバレッジを効かせ、返済原資の金を調達している。ドルの相場が上がるときに更に買い上げている姿勢は、本来の投資ポリシーからは少し的が外れている。先般、世界的なドル安への反転が金相場の頭ではと申し上げたのは、この中国筋の姿勢を参考としている。 |
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